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○ルナミSS (※パラレル設定)
「あ~また遅刻だな、こりゃ」
目覚まし時計はもう8時半を過ぎている。
大学の授業は9時から始まる。
家から車で30分かかる道程では到底間に合わない。
だがルフィにとって遅刻はいつものことだ。
「ま~いっか。飯いっぱい食ってからだ!」
あまり焦った様子もなく呑気にそんなことを思う。
ルフィが家を出る頃には既に9時を回っていた。
『遅刻の理由』
車に乗り込みいつもの通学路を辿る。
が、生憎の渋滞でなかなか進まない。
ルフィはしかしそれでも焦らなかった。
のんびり鼻歌を歌いながら進むのを待った。
ふと助手席側の窓に目をやると
窓の外に見たことのある姿が映った。
その人物と目が合った時ルフィはあっと声を出した。
「ナミ!」
窓を開けるとルフィは掛けていたサングラスを外し呼びかけた。
「ルフィ!?」
歩道を歩いていたナミは途端に驚いた表情になった。
「今から学校か?」
「えぇ、そうだけど」
「んじゃ送ってってやる!乗れ!」
「え、いいの!?」
「ああ!」
そう答えるとナミはラッキー!と喜んで助手席に乗り込んだ。
* * *
「久しぶりね、ルフィ」
「ああ、大学入ってから全然会えねェもんな~」
おれの言葉を聞き、はっとしたようにナミが口を開く。
「そうだ、もしかしてあんたもこれから学校なんじゃないの?」
「おう!」
「おう、じゃないわよ!それじゃ私の学校と方向が正反対じゃないのよ!」
「分かってるよ、うるせぇなー」
「私はあんたを心配して言ってるの!大体あんたこの時間じゃ遅刻じゃない!」
「あれ?じゃーナミもひょっとして遅刻か?」
「あんたと一緒にしないで!私は今日は10時からなの。」
「なんだ、そうなのか」
「…ねぇ、私はいいから降ろしてよ」
急に小さくなったナミの声におれは首を傾げる。
「え?なんでだ?」
「だって…あんた遅刻しちゃうじゃない」
「いいんだ」
「いいわけないでしょ!あんた少しは真面目に…」
「いいんだ」
ナミが言い終わる前に口が勝手に開いた。
「どーせ遅刻するならお前といた方が楽しいだろ?」
ししし、とおれが笑うとナミの頬が赤くなった気がした。
「…そういう問題じゃないっての」
小さく文句を言いながらもナミは少し嬉しそうだった。
車をUターンさせてナミの大学へと向かう。
久しぶりのナミとの会話は楽しくて、
やっぱりナミといると落ち着くな~なんて
おれは話しながらもそんなことをぼんやりと思っていた。
* * *
久しぶりの再会は突然やって来た。
渋滞して退屈そうに停滞している車の列を横目に
学校へと歩いて向かう途中、
何気なく目を向けた車の中の人物とふと目が合った気がした。
…誰?
「ナミ!」
そう私の名前を呼んでサングラスを外した顔にはっとした。
「ルフィ!?」
思わず声が大きくなった私にルフィがにぃっと嬉しそうに笑う。
乗れという彼の言葉に甘えて助手席に滑り込んだ。
…そういえばルフィの車に乗るのって初めてだっけ。
そう思いながら私は偶然つかんだ幸運に心の中で密かに感謝した。
「久しぶりね、ルフィ」
「ああ、大学に入ってから全然会えねェもんな~」
ルフィとは家が近所で高校まで同じだった。
私が一つ年上だから大学からは別々になったのだけど。
去年ルフィも私とは違う大学に入学して、
それからはお互い忙しくてあまり会う機会もなかったのだ。
会うのは実に約一年ぶりだった。
…ん?ちょっと待ってよ。ってことは…
「そうだ、もしかしてあんたもこれから学校なんじゃないの?」
「おう!」
「おう、じゃないわよ!それじゃ私の学校と方向が正反対じゃないのよ!」
自分のせいで遅刻させるのは
幼馴染とはいえ、何だか申し訳なくて降ろしてと申し出るが
私の気持ちとは裏腹にルフィは呑気な顔をして
「どーせ遅刻するならお前といた方が楽しいだろ?」
なんて平気で言い放つ始末。
まったく、この男は。
私がその一言でどれほど振り回されているかも知らないで。
頬が熱くなった気がするのはこの際無視しよう。
どうせこの鈍感男が気付くわけないんだから。
結局、彼のペースに巻き込まれて
私は説得を諦めて送ってもらう事にした。
…いやそれは半分、口実に過ぎないのだけど。
車を運転するルフィはとても新鮮で、
間近で見るルフィの横顔に不覚にもどきりとした。
わずか10分ほどの道のり。
それでもルフィは相変わらずよく笑い、
私は懐かしいというよりもいつもの居場所に戻って来たような
不思議な安心感を感じていた。
* * *
「ほい、着いたぞ。ここでいいか?」
大学の正門へと続く坂の下近くに来たときルフィが訊ねた。
「…あ、うんっ」
久しぶりのルフィとの会話に夢中になり
暫しの間ここにいる目的を忘れていた私は
返事をするのに少し反応が遅れた。
しかしルフィはそんな私の様子など気にも留めず
坂の下の広く空いたスペースを見つけるとそこに車を停めた。
「あ、送ってくれてありがとね、ルフィ」
それじゃ、と早口で告げてドアを開けようとした瞬間
──がしっ、と右腕を掴まれた。
「なな、何!?」
突然のことに思わず声が上ずる。
ルフィは掴んだ腕をそのままにししし、と意味ありげな笑みを浮かべた。
「この遅刻の借り、返してもらうからな」
口の端を意地悪く上げながら言われた言葉に呆然とする。
「は?あんた何言って…」
「だって遅刻したのはお前のせいだろ?」
「そうだけど…でも遅刻してもいいって言ったのはあんたじゃない!」
「けどお前のせいなのは変わりないだろ?」
にやりと楽しげに笑うルフィに言葉も出ない。
やられた…!
「…あんたもしかして最初からそのつもりで…」
「ああ!」
悪びれもせず得意げに笑うルフィが憎たらしい。
この私に借りを作らせようなんていい度胸じゃない。
「もうっ最低!」
それだけ言うとルフィの腕を振り払って車から降りる。
私が乱暴に閉めたドアの窓を開けルフィが私を見上げる。
「なによ」
じろりと睨み返す私をものともせず満面の笑みで
「じゃ、今度の休みに迎えに行くから」
なんてさらりとそんな事を言ってのける。
あまりに自然だったので思わず聞き逃す所だった。
「へ?今なんて…」
「じゃまたな、ナミ!いってらっしゃい」
「え、ちょっ、ルフィ!」
私が問い返す暇もなく爽やかに片手を上げると
ルフィは再び車を発進させ、あっという間に見えなくなった。
ただひとり残された私はしばらくそこに突っ立っていた。
今、度の…休み?
何とか事態を呑み込もうと思考を働かせる内に顔が熱くなるのを自覚した。
「要するに、デートってこと…?」
口にすると余計に恥ずかしくなって思わず周りを振り返る。
…あれはあいつなりの、誘い文句だったのだろうか。
いやあいつに限ってきっと他意はないのだろう。
それでも緩む頬を隠しきれない自分に苦笑する。
それに…とナミは口の中でぽつりと呟く。
「あいつ、あんな笑顔で『いってらっしゃい』なんて、」
…まるで、恋人同士みたいだったじゃない。
そう小さく小さく言ってしまってから頭を過ぎった
ルフィの眩しい笑顔を振り切るように足早に坂道を歩き出す。
徐々に校門が近づくのを見ながら
ナミは今度の休みは何を着ようかしら、などとぼんやり考えていた。