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○ルナミSS(微暗?)
「怖いんだ」
似合わない震えた声でルフィが言う。
「お前を、壊しちまいそうで怖ェんだよ」
降りかかる髪でルフィの表情が隠れる。
その奥から僅かに覗く目もまた
ルフィには似合わず切なげで
私はそれをとても美しいと思った。
「ル、フィ…?」
「なぁ、ナミ」
私の手首を拘束する手に力が篭る。
「おれのもんになってくれ」
私は答えない。
──答えられない。
「おれのもんに、なってくれよ」
なぁナミ。ルフィの声がまた震える。
見た事がないそんなルフィの様子に
私はひどく戸惑う。
真剣な眼差し。
乱れた荒い息。
顎に滴る汗。
私の手首を押さえつけて
私の上に覆い被さるルフィは
普段とは違う男の顔をしていて、
それがたまらなく色っぽかった。
私はもうとっくにあんたのものなのに。
そんなことにも気付かないなんて、バカみたい。
けどあんたは。
私がどれだけ望んでも
あんたは、私のものにはならないから。
私はルフィの言葉に素直に頷けずにいる。
だってそんなの不公平じゃない。
私だけを自分のものにしようだなんて。
何て強欲な男。
どれだけ愛しても
どれだけ焦がれても
あんたを独占することなんてできない。
あんたを縛る事なんてきっと他の誰にもできはしない。
それなら私もあんたのものにはならないわ。
それが意味のない強がりだと分かってても。
私の頬にルフィの汗が落ちる。
まるで涙みたいに冷めた温度。
この汗さえも私の一部にしてしまえればいいのに。
こんなにあんたを愛してるのに。
決してひとつにはなれないんだ。
あんたが、あんたである限り。
もう一度ルフィが私の名前を呼ぶ。
相変わらずらしくもなく震える声で。
私も、怖いよ。
今のあんたなら、簡単に壊してしまえそうで。
怖い。
「ルフィ…」
呟く私の声も、震えていた。
重なる冷たい肌。
(ひとつなのにどこまでもふたつな私達。)
○ルナミSS(両思い未満)
海が見える。
きらきら、きらきら。
光る。波も、弾けるしぶきも。
あぁ、綺麗だ。
顔を上に向ければそこにもまた。
海と同じ青。
だけど全然違う青い空。
海より薄くて澄んだ青。
日を浴びて光ることはないけれど、代わりに眩しい光が広がる。
あぁ、それも綺麗だ。
「あんたは、太陽みたいね。」
そんな風によく言われる。
けどそんなことはないと、俺は思う。
だって俺はあんな風に海を光らせることはできない。
あんな眩しくて綺麗になにもかも照らすなんて、俺には無理だ。
だって俺は人間で、好き嫌いだってある。
俺が太陽だったら、照らしたくないものは絶対に照らさない。
例えば俺が太陽だったら。
光を与えるのは、この海と、仲間と、大切な奴ら、…そして──。
「ルフィ!」
大声で名前を呼ばれてハッとする。
振り向くとナミが腰に手を当てて怖い顔で立っていた。
「んあ?なんだ?」
「なんだ?じゃないでしょ!さっきから何度も呼んでるのに。」
「え?そうなのか。悪ぃ、聞こえなかった。」
そう答えるとナミはふぅっと大げさにため息をついた。
そんな顔をしなくても、と俺は思う。
ナミは俺に対してほとんどの場合、不機嫌だ。
まぁそれは俺が悪いからだとは、分かっちゃいるけど。
「まぁいいわ。とにかくあんた、そこから降りなさいよ。」
そこ、というのは俺の特等席のことだ。
「何で?」
「何でって…何度も言うけどあんたはカナヅチでしょ?もし落ちたらどーすんのよ!」
「そしたらお前らが助けてくれるだろ?まぁ俺は落ちねぇけどな。」
ししし、と胸張って笑ってみせたらナミが呆れたように頭を抱えた。
「っもう!少しは心配するこっちの身にもなりなさいよ」
「んん!俺は落ちねぇから大丈夫だ!心配すんな!」
「あのねぇ…」
「それによ!」
まだ何か言いたそうなナミの言葉を止めようとして俺は口を開く。
「それに、今俺が落ちたらお前が助けてくれるだろ?」
「は?」
「もし俺が溺れたってお前は必ず助けてくれる。お前がいるから俺は安心してここに居れるんだ。」
ししし。他の奴らだって同じだ!
俺はみんなを信じてるからな。
だから大丈夫。
ナミは俺の言葉にすっかり黙り込んで何故か真っ赤になってる。
また怒らせちまったのか?そう思って俺は慌てる。
ほらな、俺は太陽なんかにはなれねぇ。
だって俺はナミが好きなのに、ナミを綺麗に輝かしてやることはできねぇ。
それどころか、ナミは俺の前ではしかめっ面をしてばっかだ。
俺のせいで、ナミを曇らせてしまってる。
俺が見たいのは、そんな顔なんかじゃないのに。
「ナミ?怒ったか?」
特等席から飛び降りて俯いてるナミの前に立つ。
ナミは真っ赤な顔して黙ったままだ。
どうすればいいのか分からなくてとりあえずナミの頭に手を置く。
「ごめんな。」
そのままオレンジ色の髪をわしゃわしゃと撫でる。
心なしかナミの顔が更に赤くなった気がした。
「ナミ?」
「わ、分かったわよ!もういいからっ。」
「え、ホントか?」
「しょうがないでしょ。あんた一度言い出したら聞かないし。」
「おう!そうだ!(どーん)」
「威張るなっ!」
頭にナミの鉄拳が落ちる。
けどいつもみたいな力はなくてそんなに痛くなかった。
それでも何となくいてぇ、と呟くと
「自業自得よ!」
と更に怒鳴られた。
「ねぇルフィ。あんた何でそんなにそこが好きなの?」
ひとりでぶつくさと俺に文句を言っていたナミが
急に真面目な顔になってそう訊ねる。
「何で?」
そういえばそんなこと、考えたことなかった。
う~ん…と唸りながら俺なりに理由を探す。
思い浮かぶのは、きらきら光る青。
「んん!俺は海が好きだからな!」
自信満々に答えたけど、どうやら俺の言葉はナミには伝わりづらいらしい。
首を傾げてきょとんとしてみせて、それから曖昧に「そう」と頷いて
「あんたらしいわね」と言って笑った。
うまく言える言葉を見つけられなくて、俺は少し悔しかった。
けど、ナミがやっと笑ってくれたからもうそれでいいと思った。
だからそうだ、と言って俺も笑ってみた。
ナミはそんな俺を見てなぜか眩しそうに目を細めて、
「やっぱり、あんたって太陽みたい。」
と呟いた。
「じゃあ、お前は波だな!」
「…あんたそれ名前をいじっただけじゃない。」
肩をすくめてナミはそう言ったけど、それでも嬉しそうに笑った。
だからやっぱり俺はそんなことはないと思ったけど、
ナミがそうやって優しく笑うなら、俺は
ナミの前だけなら太陽になってやってもいいかもな、と思った。
光と青と波。
(俺がそこにいるのは、お前を待ってるからでもあるんだって、俺はまだ知らなかった。)
○ルナミSS(両思い未満/ちょい黒船長)
あんたが、
口にすると途端に
押し込めてた感情が、言葉が、溢れ出す。
あんたが、どうしようもなく欲しいの。
そう言うとルフィはいつものようにししし、と屈託なく笑う。
月明かりの下、その笑顔はどこか大人びて見えて。
それさえもこの手に閉じ込めたいと思う私は
もしかしたら酔っているのかもしれない。
いつもの冒険終わりの宴のあと。
珍しく起きているルフィと2人きりになってしまった私は、
お酒の勢いに任せてか、つい言葉が口をついて出る。
一度零れ出た本音は、自分でももう止められなかった。
「あんたが、…ルフィが、欲しいの。」
もう一度独り言みたいに呟いて赤いシャツを引き寄せる。
しがみつく私の頭をまるで子供をあやすように撫でる彼の手は
どうしようもなく優しくて、何故だか無性に泣きたくなった。
あぁ、やっぱり私は酔っているのかもしれない。
だって頬がいつもより熱い。
「じゃあ力づくで奪ってみろよ。」
くくっ、とルフィが笑うのが気配で分かる。
「俺を、奪ってみせろ。」
普段と変わらぬ口調で呟く彼が、何だかとても憎らしくて。
そのせいでさっきまでの感傷的な気分はどこかへ吹き飛んでしまった。
酔っている、なんて思ったのが間違いだった。
そもそも私が酒に、ましてやこの男なんかに酔う筈がないのだ。
そう気付いて顔を上げるとルフィはまだ笑みを浮かべていた。
その余裕ぶった顔に更に苛立ち、思わずきっ、と睨んだ。
「そんなのお断りよ。」
言うなり生意気なその唇に乱暴にキスをした。
「だって奪うも何も、あんたはもう私のものでしょう?」
勝ち誇ったように上目遣いでそう言ってやれば。
ルフィはまたししし、と愉快そうに笑う。
何よ、と抗議する間もなくルフィが口を開く。
「お前だってもうとっくに俺のもんだぞ。」
自信満々にそう宣言されてお返し、とばかりに強引に口づけられた。
囚われて尚。